アメリカのラップミュージックを聴き始めてもうかれこれ20年くらいになる。
昔のものからわりと最近のものまでいろいろ聴いているが、いまだにストレートで強烈なメッセージやユニークでウィットに富んだリリック(歌詞)を見つける度に1人でニヤリとしたり、何度も頷いたりしている。
このシリーズでは、普段ラップをあまり聞かない人がラップミュージックの魅力に気づいてくれたり、また自分のようにラップのリリックから英語に興味を持ってくれる人がいたら嬉しい、という思いから、ヒップホップ界のレジェンドや、今アツいアーティストたちのリリックの中から、「これはやられたっ!」と思わず唸ってしまうようなエッジが効いてオリジナリティが溢れるパンチラインを紹介していこうと思う。
それじゃ、早速今日のエントリ―を見ていこう―――。
今日の名曲パンチライン
“And when it comes to gettin’ nookie I’m not a rookie I got girls that make that chick Toni Braxton look like Whoopi”
-Big L, “Put It On” (1995)
パンチライン徹底解説
- “when it comes to~”の使い方
- “that”の使い分け
今日のパンチラインは、New Yorkのハーレム出身のラッパーBig Lの生前唯一のスタジオアルバム、“Lifestylez ov da Poor & Dangerous”のファーストシングルである“Put It On”という曲からの一節です。
Big Lのラップは独特のリズムで「タタタッ、タタタタッ」とテンポよく流れてスピードも速いので、一度聞いただけでそのリリックの意味を理解するのは難しいですが、僕は何度も何度もこの大好きな曲を聴いているうちにちょっとずつ意味がわかるようになり、そして初めてこのパンチライン全体の意味を完全に理解したときは思わず、冗談抜きで頭を抱えて「うおぉーーーー!!」って唸りました笑
今回のパンチラインはそれくらい衝撃的です。今日はそんな強烈なパンチラインを、
- “And when it comes to gettin’ nookie I’m not a rookie”
- “I got girls that make that chick Toni Braxton look like Whoopi”
の2つに分け、それぞれのパートを細かく分けて徹底的に解説していくことにします。
それでは早速見ていきましょう。
“And when it comes to gettin’ nookie I’m not a rookie”
まずは前半部分ですが、ここではわかりやすくするためにさらに細かく切って説明していきたいと思います。
“when it comes to~”
まず、“when it comes to~”ですが、これは熟語で「~に関しては」という意味です。
これは日常会話でも本当によく使う表現なので絶対に覚えておきましょう。
<“when it comes to~”の使い方>
- 反射的に「”to”の後は動詞の原形」としてしまいがちですが、“when it comes to~”はこれで熟語のため、”to”の後には名詞(句)が続きます。そのため直後に動詞が来る場合は 「動名詞」(~ing形で「~すること」) になるので要注意
“getting nookie”
次の“getting nookie”についてですが、“nookie”はスラングで、「女性とセクシャルなこと(ハグ、キス、セックスなど)をすること」という意味ですが、ほとんどの場合セックスのことを指すので普通にセックスでいいでしょう。
“I’m not a rookie”
次の“I’m not a rookie”に関しては、“rookie”は「ルーキー」つまり「新人」のことですね。
なので、「おれは新人じゃない」という意味になりますが、それだと響き的にちょっとかっこ悪いので、ほぼ同じ意味なのでここでは逆に「ベテランだ」という風にしてみましょう。
ということで、ここまでを全部繋げると、「おれはセックスに関してはベテランだ」という感じになります。
いいですか?じゃあこれで前半はOKですね。では次は残りのパートを見ていきましょう。
“I got girls that make that chick Toni Braxton look like Whoopi”
後半部分ももう少し細かい塊に分けて解説していきます。
“I got girls”
まずは“I got girls”について。これは単純に「おれは女(複数形)を持ってる」なので、「おれには女がたくさんいる」くらいでOKです。
どんな女なのかというのが次の“that”以降で説明されているので見てみると、“that make that chick Toni Braxton look like Whoopi”と続いていますね。
ここはちょっと難しい部分なのでしっかりつながりを考えながら見ていきましょう。
“that make that chick Toni Braxton”
まず気になるのが“that make that”と”that”が続いていますね。実はこの2つの“that”は同じ単語でもそれぞれ違う働きをしています。
最初の”that”はいわゆる「関係代名詞」の”that”で、直前の名詞(ここでは”girls”)について、”that”以降で修飾していますが、この場合”that”自体は日本語には訳しません。
その後は、”make that chick Toni Braxton~”と続いていきますが、ちょっとここで頭に入れておいてほしいのは、“make+人+動詞”という形です。この”make”を使ったお決まりの形は非常に重要で、日常会話でも超頻繁に使われるので必ず覚えておきましょう。意味は「人を~させる」となります。
この部分は後からまた説明するので、とりあえずこのお決まりの形を覚えておいてください。
“make+人+動詞” 「人を〜させる」は超基本かつ超重要な表現です。
そして二番目の”that”に戻りますが、こちらは「形容詞」の “that” で、「あの」という意味です。“chick”は「女の子」で、そこにトニ・ブラクストンが続いているので、ニュアンスは「あの(有名な)トニ・ブラクストン」くらいの感じになります。
ちなみにトニ・ブラクストンというのはめちゃくちゃ可愛い黒人の歌手/女優(1990年代当時)で、みんなの憧れの存在です。
トニ・ブラクストン
この“that”という単語には、上の例の他にも実はたくさんの用法があり、英文を読んでいて”that”に出くわすと「ここではどの”that”が使われてるの?」と疑問に思ってしまうことも多いかもしれません。
そこで、日常会話で一般的によく使われる”that”の用法を以下で簡単に説明すると、
<“that”の使い分け>
- 形容詞の”that”:「あの〜」という意味(例:“that girl”「あの女の子」)
- 接続詞の”that”:前後のS+Vを繋ぐ”that”で、後のS+Vをうけて「~ということ」という意味で前のS+Vに繋ぐ。この接続詞の”that”は省略することができる(例:“I know (that) she is right”「彼女が正しいということは知っている」)
- 関係代名詞の”that”:直前の名詞を”that”以下で修飾する。”that”は日本語には訳さない(例:“A girl that I met yesterday”「私が昨日会った女の子」)
などが日常的に非常によく使われるので、それぞれの違いを理解しておきましょう。
“look like Whoopi”
そして最後の“look like Whoopi”ですが、これは単純に「ウーピー・ゴールドバーグみたいに見える」という意味になります。
ウーピー・ゴールドバーグと言えば、「天使にラブ・ソングを」などをはじめ、ものすごい数の映画に出ているちょっとごつっとした黒人のおばさんですね。
ウーピー・ゴールドバーグ
“make+人+動詞”に当てはめる
ではそれぞれのパーツの意味と繋がりがわかったところで、ここでもう一度 “make+人+動詞”の構文を思い出し、各パーツを当てはめてみましょう。
すると、“make”+”that chick Toni Braxton”+”look” となり、ここだけで「あのトニ・ブラクストンを見えさせる」という意味になります。
“make+人+動詞” → 「人を~させる」
“make”+”that chick Toni Braxton”+”look” → 「あのトニ・ブラクストンを見えさせる」
そして何みたいに見えさせるかというと、”look”の後に“like Whoopi”が続いているので、「あのトニ・ブラクストンをウーピー・ゴールドバーグみたいに見えさせる」という文が完成します。
ええ、そしてこの文全体が、一番目の“that”(関係代名詞)によってその前の「おれにはたくさん女がいる」の「女(”girls”)」という部分にかかっているので、そこまでをまとめると、
「おれにはトニ・ブラクストンをウーピー・ゴールドバーグみたいに見えさせるような女がたくさんいる」
となり、これで後半部分の出来上がりです。
まとめ
ということで、ようやく全てのパーツの意味がわかったのでいよいよ各パーツを繋ぎ合わせてこのパンチラインを完成させましょう。
前半と後半を合わせると、
- 「おれはセックスに関してはベテランだ」
- 「おれにはトニ・ブラクストンをウーピー・ゴールドバーグみたいに見えさせるような女がたくさんいる」
となるので、少しニュアンスを整えて、
“And when it comes to gettin’ nookie I’m not a rookie I got girls that make that chick Toni Braxton look like Whoopi”
「おれはセックスに関しちゃベテランで、おれの周りにはまるでトニ・ブラクストンがウーピー・ゴールドバーグに見えるくらいの超可愛い女がいっぱいいるぜ」
という感じに訳してみました。
ちなみにこのパンチラインの本当にすごいところは、“nookie”、“rookie”、そして “Whoopi”と音で韻を踏みつつ、“Whoopi”にスラングで「セックス」を表す言葉“whoopee”(発音もウーピー)をかけて意味でも韻を踏んでいるんです!
僕はずっとこの“whoopee”「セックス」というスラングを知らなかったんですが、ある時その事実を知って、驚愕のあまり思わずウー◯ーみたいなう◯こを漏らしそうになってしまいました。
本当に、Big Lのユーモアと言葉のチョイス、そしてフロウ(ラップの流れ)はめちゃくちゃかっこいいです。
曲はこちらからチェックできるので良かったら聞いてみてください(該当部分は0:48辺りからです)
が、実は残念なことに彼はこの曲が収録されているアルバムをリリースしたわずか4年後に、仲間による銃撃により24歳の若さでこの世を去っているんですよね・・・なんとも悲しい話です。
New YorkのハーレムにはBig Lを描いたストリートアート(“mural”(みゅーろぅ)と言います)があって、ファンの間では人気の観光スポットとなっています。
僕は初めてNew Yorkを訪れた際には残念ながら行くことができなかったので、次回チャンスがあれば必ず行きたいと思っています。
ということで今回は内容が非常に複雑に絡んでいて大変でしたがなんとか解説することができました。
ちなみにこの“Lifestylez ov da Poor & Dangerous”はBig Lの生前唯一のアルバムですが、実は彼の死後にも生前の音源から“The Big Picture”や“139 & Lenox”、“Return of the Devil’s Son”などいくつかアルバムがリリースされています。
本当にどれも名盤で、とにかくこのBig Lのラップはめちゃくちゃかっこいいので、これを機にラップに興味を持った人や、僕のように「洋楽から日常で使える表現を学びたい!」と思った人は是非チェックしてみてくださいね。
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はい。ということで、今回の「ラップ名曲パンチラインに学ぶ英語特集」はいかがだったでしょうか?これからも素晴らしきラップミュージックの魅力をお届けすると共に、あなたの英語学習の助けになれれば光栄です。
前のエピソードや次のエピソードも気になる!という方はそれぞれこちらからどうぞ。
<前のエピソード>
ラップ名曲パンチラインの意味に学ぶ英語vol.3「Bushwick Bill編」
<次のエピソード>
ラップ名曲パンチラインの意味に学ぶ英語vol.5「GLC編」
また、第1回から見てみたい!という方がいましたらこちらからチェックしてみてください。
それではまた!