アメリカのラップミュージックを聴き始めてもうかれこれ20年くらいになる。
昔のものからわりと最近のものまでいろいろ聴いているが、いまだにストレートで強烈なメッセージやユニークでウィットに富んだリリック(歌詞)を見つける度に1人でニヤリとしたり、何度も頷いたりしている。
このシリーズでは、普段ラップをあまり聞かない人がラップミュージックの魅力に気づいてくれたり、また自分のようにラップのリリックから英語に興味を持ってくれる人がいたら嬉しい、という思いから、ヒップホップ界のレジェンドや、今アツいアーティストたちのリリックの中から、「これはやられたっ!」と思わず唸ってしまうようなエッジが効いてオリジナリティが溢れるパンチラインを紹介していこうと思う。
それじゃ、早速今日のエントリ―を見ていこう―――。
今日の名曲パンチライン
“Dead in the middle of Little Italy little did we know that we riddled two middlemen who didn’t do diddly”
-Big Pun, “Twinz (Deep Cover ’98)” (1998)
パンチライン徹底解説
- “little”と“a little”の違い
- 「否定語」から始まる文の語順
今日のパンチラインはBig Pun (R.I.P)というラッパーの“Capital Punishment”というアルバムに収録されている“Twinz (Deep Cover ’98)”という曲の1フレーズです。こちらはラップ好きの間ではとても有名なラインで、ラップ史上ベストパンチラインの1つとも言われています。
「ででぃなみるろヴぃるいらりりるでぃうぃのだうぃうぃどぅとぅみどぅめふでぃんどぅでぃどぅり」
と本当におまじないのようにしか聞こえない英語なんですが(↓で動画観られます)徹底解説ではパンチラインを、
- “Dead in the middle of Little Italy”
- “little did we know”
- “that we riddled two middlemen”
- “who didn’t do diddly”
の4つのパートに分け、それぞれの部分の意味と繋がりを細かく噛み砕いて明確にしていきたいと思います。
“Dead in the middle of little Italy”
まずは初めの“Dead in the middle of little Italy”についてですが、意味はズバリ、「リトルイタリーのど真ん中で死んでいる」になります。
リトルイタリーというのはマンハッタンの南側にある小さなイタリア人街のことです。Big PunはNew York出身のラッパーで、この曲の舞台もNew Yorkという設定になっているんですね。
“in the middle of ~”「~の真ん中で」は日常英会話でもよく使われる基本的な表現なので確実に押さえておきましょう。
“little did we know”
次に“little did we know…”の部分についてですが、実はここは英文法がしっかりと頭に入っている人でないと少し難しいところです。
まずは“little”という単語について。よく間違われることですが、“little”は、単独では「ほとんど〜ない」という否定的な意味もあり、”a”がついた“a little”「少しの」とは異なる、ということは覚えておきましょう。
<“little”と“a little”の違い>
- “little”:「ほとんど〜ない」
- “a little”:「少しの」
そして、英語では、「否定的な意味を持つ語や句が文の頭に来ると、その後の語順が入れ替わる」というややこしいルールがあり、ここではその現象が起きています。文法的な言葉を使うと「倒置」というやつですね。
この「倒置」は強調表現として用いられることがあり、倒置が起きるとその後の文のS+Vの語順がV+S(疑問文の語順)に入れ替わります。
ここでは、本来は“We didn’t know”「私たちは知らなかった」としたいところなんですが、否定語の”little” 「ほとんどない」が先頭に来ているので倒置が起き、主語(S)と動詞(V)が入れ替って「疑問文の語順」になります。
“We didn’t know”「私たちは知らなかった」を疑問文にするとしたら、「私たちは知っていましたか?」となり、英語では“Did we know?”となりますよね。そしてそこに”little”を付けてあげればいいんです。
ええ、正直簡単ではないと思います。
ですがこの否定語が先頭に来ることによる倒置というのは、文語表現(本や新聞、ネット記事など)では非常によく見かけるので、覚えておくと必ず役に立つと思います。
逆に、口語表現(普段の日常会話)においてはそんなに耳にすることはないので、「こういうものなんだ」と理解しておけば困ることは少ないでしょう。
例えば文を読んでいて「あれ、なんかこの文語順がおかしくない?」と思ったら倒置を疑ってみて、先頭に否定的な意味の言葉が来ていたら、「ああ、これは強調しているんだな」と思う程度で問題ないと思います。
また、一口に「否定的な意味の言葉」と言っても、実際は上で出てきた“little”の他にも、“never”や“hardly, seldom, only, nor, scarcely”などを始め、“by no means”、“not until you came home”などの否定的な「句」が来ても倒置が起こるため、一度にあまり詰め込もうとしすぎず、とにかくいろんな種類の文章に出会っていく中で徐々に慣れていくのが一番良いと思います。
<「否定語」から始まる文の語順>
- 文の先頭に「否定的な意味を持つ語や句」が来ると倒置が起き、SとVの関係が入れ替わって「疑問文の語順」になる
- この場合の倒置は文の意味を強調する役割がある
- 「否定的な意味を持つ語や句」は、“little”の他にも“never”や“hardly, seldom, only, nor, scarcely”、また“by no means”や“not until you came home”などの否定的な意味のフレーズの場合もある
ええ、その中でも“little”と“never”はわりとよく使われます。英文を読んでいてもし文の先頭に”little”や”never”を発見したらこの「倒置」が起こっていないかチェックしてみてください。
ということで、この部分の意味は“Little did we know”で「ほとんど知らなかった」という具合になります。
文法のルールは一度に全て覚えようとするとものすごく大変ですが、同じような例に出くわす度に必ず慣れてきます。英語は反復練習することで知識はどんどん上積みされていくので、焦らず1つずつコツコツと身につけていきましょう。
“that we riddled two middlemen”
そして何を知らなかったのかというのは、“that we riddled two middlemen”に続いています。
“riddle”という単語には「なぞなぞ(をかける)」という意味と、「(銃などで)穴だらけにする」という2つの意味がありますが、ここは後者の意味で使われています。
そして“middlemen”は「中間=パイプ役」ですが、ここでの意味は「(狙っている)組織のボスに仕える下っ端の奴ら」というくらいの意味でOKです。その2人の「下っ端」を「銃でハチノス」にしてしまったんですね。
“who didn’t do diddly”
そして最後の“who didn’t do diddly”の”who”というのは直前の2人の“middlemen”にかかる関係代名詞で、“didn’t do diddly”「何もやってない」が“middlemen”を後ろから修飾し、「何もやっていない下っ端」という風に繋がります。
“diddly”というのは「大したことないもの」という意味で、普段はあまり使うことのない単語ですが、ここでは「韻を踏むため」に使われていると考えられます。
まとめ
と、各パーツを文法的に解説するとこんな感じです。それでは全部のパーツをくっつけてみましょう。
- 「リトルイタリーのど真ん中で死んでいる」
- 「ほとんど知らなかった」
- 「2人の下っ端をハチノスにしたということ」
- 「何も大したことをやってない」
という風になり、これらを繋げて意味を整えて、
“Dead in the middle of Little Italy little did we know that we riddled two middlemen who didn’t do diddly”
「リトルイタリーのど真ん中で2人の下っ端野郎を知らずにハチノスにしちまった」
という感じに訳してみました。
この曲はギャング映画のような犯罪をテーマにしていて、Big Punとその相棒のFat Joeがまるで登場人物のようにかっこいいラップの掛け合いを披露していくドラマ仕立ての曲になっています。
良かったらこちらからチェックしてみてください(該当部分は1:03辺りからです)
ちなみに、この“Capital Punishment” (1998)というアルバムは、Big Punの1stアルバムにして彼のベストアルバムと言われている作品です。Big Punはこの”Capital Punishment”の他にも“Yeeeah Baby” (2000)というアルバムをリリースしていますが、彼自身の作品はこの2作のみで、それ以外は他のアーティストとのコラボレーションや、フィーチャリングアーティストとして他のラッパーのアルバムに現れるということが多く、上で出てきたFat Joeとも度々コラボをしています。
そんなBig Punですが、かなりの巨漢で、実は成人後ずっと体重増加に悩まされていました。そして2000年には体重が原因で心臓発作と呼吸困難を起こし、28歳の若さで亡くなっています。ちなみにこの時の体重は300kgを超えていたそうです。
Big Punのラップは犯罪やドラッグ、女性などを題材にした激しい内容の歌詞が多いですが、その中に今回のようなユーモアのある言葉遊びが随所に見られるので個人的には大好きなラッパーの一人です。これを機にラップに興味を持った人や、僕のように「洋楽から日常で使える表現を学びたい!」と思った人は彼の音楽も是非チェックしてみてくださいね。
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はい。ということで、今回の「ラップ名曲パンチラインに学ぶ英語特集」はいかがだったでしょうか?これからも素晴らしきラップミュージックの魅力をお届けすると共に、あなたの英語学習の助けになれれば光栄です。
前のエピソードや次のエピソードも気になる!という方はそれぞれこちらからどうぞ。
<前のエピソード>
ラップ名曲パンチラインの意味に学ぶ英語vol.1「元祖ラップ曲編」
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ラップ名曲パンチラインの意味に学ぶ英語vol.3「Bushwick Bill編」
それではまた!